P2 intro 心理療法のプロセス序文

心理療法の役割は、小さな自己の捉え方、小さな自己から見る見え方を変化させることです。
この役割の究極目的は、真の自己を確立することではありません。
真の自己はすでに神によって創造され確立しているからです。
しかし、私たちが、この世界は本物で、自分が世界の中でばらばらに生きている人間だと信じていることは、真の自己が狂気に侵されて機能不全に陥っていることを示しています。
セラピストも患者も、人間として生きている以上、偽りの自己概念を抱いていることになります。
患者は心理療法に「私はこういう人間だ」という自己概念を少しも変えることなしに、うつ状態等の精神的機能不全の改善を求めます。
セラピストは、患者の「病んだ」自己概念をセラピスト自身が自分なりに本物だと信じる自己概念に変えることが患者の治療になると信じて心理療法に取り組みます。
とはいえ、通常のセラピストが信じる正しい自己概念は「神の子」であるはずはなく、彼もまた偽りの自己概念を抱いており、患者と同じように、エゴが本当の自己だと信じたままでしょう。
セラピストの信じる自己概念は、患者の信じるそれに比べて、より上手に独立して社会生活を営むことのできる「健常なエゴ」であるという程度です。
ですが、セラピストは、自己概念を手つかずのままよくなりたいという目的を持つ患者に対して、患者の病んだ自己概念を変えることを目的にしいるのは確かです。
したがって、心理療法の場面では、患者とセラピストの目的は一致していないし、各自が考える「改善」も相違しています。
なので、心理療法が持つ課題は、このような両者の希望の相違を調和させることであり、聖霊の導きを受けて心理療法がうまく進むなら、両者は自分たちが心理療法を始める際に抱いていたもともとの目標を放棄することを学ぶことになります。
4.「Hopefully, both will learn to give up their original goals, for it is only in relationships that salvation can be found.
うまくいけば、セラピストと患者の双方は自分たちの元々の目標を諦めることを学ぶでしょう。というのは、救済を見出すことができるのは、ただ関係性の中においてのみだからです。」
心理療法が首尾よく進むなら、心理療法は、患者が怒りによって自分の真に望むものを獲得でき、攻撃によって自分を防衛できるという信念が根本的な誤りであることに気づく関係性となり、両者が真の自己という現実に至る道となることができます。
2. THE PROCESS OF PSYCHOTHERAPY
心理療法のプロセス
Introduction
序文
1. Psychotherapy is a process that changes the view of the self.
心理療法は、小さな自己についての見方を変えるプロセスです。
At best this "new" self is a more beneficent self-concept, but psychotherapy can hardly be expected to establish reality.
うまくすれば、この「新しい」自己は、より役に立つ自己概念となります。しかし、心理療法に真の自己を確立することを期待するのはお門違いです。
That is not its function.
現実を確立することは、心理療法の役割ではないからです。
If it can make way for reality, it has achieved its ultimate success.
もし心理療法が現実に至る道を開くことができたなら、心理療法はその究極的な成功に達したといえます。
Its whole function, in the end, is to help the patient deal with one fundamental error; the belief that anger brings him something he really wants, and that by justifying attack he is protecting himself.
最終的に、心理療法が果たすべき役目は、患者が唯一の根本的な誤りに取り組む手助けをすることだけです。その根本的な誤りとは、怒りが患者の真に望む物事を彼にもたらし、攻撃を正当化することで患者は自分自身を防衛することになるという信念です。
To whatever extent he comes to realize that this is an error, to that extent is he truly saved.
怒りが自分の真に欲するものを与えてくれるとか、攻撃によって自分を守ることができるという信念が根本的な誤りだと気づく程度に応じて、その患者は真に救われることになります。
2. Patients do not enter the therapeutic relationship with this goal in mind.
患者は、この気づきを目標として心に掲げて、治療のための関係に入るわけではありません。
On the contrary, such concepts mean little to them, or they would not need help.
それどころか、患者にとっては、そのような概念はほとんど意味をなしません。それが意味を持っていたなら、そもそも患者には助けなど必要なかったはずです。
Their aim is to be able to retain their self-concept exactly as it is, but without the suffering that it entails.
患者が目指しているのは、自分たちの自己概念はきっちりそのまま温存しながらも、その自己概念に伴う苦痛だけ味わわずに済むようになることです。
Their whole equilibrium rests on the insane belief that this is possible.
彼らは心の安定のための全面的な拠り所として、こんなことが可能だという狂気の信念を当てにしているのです。
And because to the sane mind it is so clearly impossible, what they seek is magic.
そして、正気の心からすれば、自己概念をそのままにしておきながら苦痛から免れることは明らかに不可能なので、患者が求めているものは魔術というほかありません。
In illusions the impossible is easily accomplished, but only at the cost of making illusions true.
不可能なことでも、幻想の中であれば、容易に達成することができます。ただし、それは、幻想を本物に仕立てあげるという代償を払ったときだけです。
The patient has already paid this price.
その患者はすでにこの支払いを済ませています。
Now he wants a "better" illusion.
そのうえで今、その患者は「よりよい」幻想を欲しているのです。
3. At the beginning, then, the patient's goal and the therapist's are at variance.
したがって、出だしから、患者の目的とセラピストの目的は一致していないのです。
The therapist as well as the patient may cherish false self-concepts, but their respective perceptions of "improvement" still must differ.
患者と同じようにセラピストも、偽りの自己概念を抱いているかもしれません。しかし、彼ら各自の「改善」についての捉え方は依然として違ったものであるはずです。
The patient hopes to learn how to get the changes he wants without changing his self-concept to any significant extent.
患者は、少しでも意味を持つ程度に自分の自己概念を変化させることなく、自分の欲する変化を手に入れるにはどうすればよいか学びたいと望んでいます。
He hopes, in fact, to stabilize it sufficiently to include within it the magical powers he seeks in psychotherapy.
それどころか、患者は、自分が心理療法の中に求めている魔術的な力を自分の自己概念の中にしっかりと組みこんで小さな自己を安定させたいと望んでいます。
He wants to make the vulnerable invulnerable and the finite limitless.
患者は、傷つきうるものを傷つかざるものに、限りあるものを無限なるものにしようと望んでいるわけです。
The self he sees is his god, and he seeks only to serve it better.
患者の見ている小さな自己が彼の神であり、患者は自分の神によりよく奉仕することだけを求めているのです。
4. Regardless of how sincere the therapist himself may be, he must want to change the patient's self-concept in some way that he believes is real.
セラピスト本人がいかに誠実であるかということにかかわりなく、セラピストは、どうにかして患者の自己概念をセラピストが本物と信じるものに変えようと望むに違いありません。
The task of therapy is one of reconciling these differences.
治療の課題は、このようなセラピストと患者の希望の相違を調和させることです。
Hopefully, both will learn to give up their original goals, for it is only in relationships that salvation can be found.
うまくいけば、セラピストと患者の双方は自分たちの元々の目標を諦めることを学ぶでしょう。というのは、救済を見出すことができるのは、ただ関係性の中においてのみだからです。
At the beginning, it is inevitable that patients and therapists alike accept unrealistic goals not completely free of magical overtones.
初めの段階では、患者とセラピストがともに、魔術的なニュアンスを完全には払拭しきれていない非現実的な目標を受け入れてしまうのは避けようのないことです。
They are finally given up in the minds of both.
それでも、最終的には、非現実的な目標は、双方の心の中において放棄されることになります。

Kino
07